福岡地方裁判所 昭和42年(行ウ)13号 判決 1968年10月24日
福岡市大字下山門一、四一九番地老人ホーム内
原告
藤木タカ
右訴訟代理人弁護士
出雲敏夫
同市天神四丁目一番三七号
被告
西福岡税務署長
右指定代理人検事
島村芳見
法務事務官
大串俊二
大蔵事務官
大塚悟
同
小林淳
同
大神哲成
右当事者間の行政処分取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告が原告に対し昭和四一年一〇月一二日なした原告の昭和三六年度分所得税および無申告加算税の
賦課決定を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として、
一、被告は原告に対し、昭和四一年一〇月一二日付で、原告の昭和三六年度分の所得税額を金一六万八、七五〇円、同じく無申告加算税額を金四万二、〇〇〇円とする賦課決定(以下本件処分という)をなし、その旨原告に通知した。
二、右決定に対し原告は昭和四一年一二月二六日付をもつて福岡国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は昭和四二年四月一四日右審査請求を棄却する裁決をなし、その旨原告に通知した。
三、しかしながら被告の本件賦課処分は次の理由により違法である。
すなわち被告は原告が昭和三六年四月二八日原告名義の久留米市東町字広又の一〇、三二五番の八宅地二六四・四六平方米(実測一七五・二〇平方米)(以下本件宅地という)を訴外石村秀夫および白水善左衛門に対し代金五三〇万円で売却したから右代金額の所得があり、かつこれを申告しなかつたとして本件処分をなしたものである。しかしながら本件宅地の所有者は原告の実兄亡広瀬正蔵であつて右代金も同人が全額受領しており、原告は右土地を区画整理による買収から免れさせるため同訴外人の独断に基づき単に登記簿上所有名義人とされていたに過ぎない。したがつて本件土地の売却による所得については実質課税の原則から右代金を取得している右広瀬正蔵に課税すべきである。
よつて被告のなした本件課税処分は違法であるからその取消を求める。
と述べた。
被告指定代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、
請求の原因第一項および第二項は認める。但し福岡国税局長に対する昭和四一年一二月二六日付審査請求は、いわゆるみなす審査請求であつて、原告が同年一〇月一九日付で被告に対し異議申立をなしていたものを原告の同意を得て移行されたものである。第三項のうち本件宅地の所有者が訴外広瀬正蔵であつて、売却代金も同人が受領しているとの点は否認する、その余の事実は知らない。
被告のなした本件課税処分の適法であることは左の経緯により明らかである。
すなわち、原告は昭和三六年二月二八日原告所有の本件宅地を訴外石村秀夫および白水善左衛門に五三〇万円で売渡し右売渡金額のうち借地権者であつた訴外亡広瀬正蔵に借地権対価として三〇〇万円を支払い残額二三〇万円を現実に取得した。よつて被告は別表のとおり決定処分をしたものである。
と述べた。
証拠として、原告訴訟代理人は甲第一ないし三号証、同第四、五号証の各一、二を提出し、証人後藤朋義、同石村秀夫、同川原春男、同広瀬キミ子の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立(乙第二、四号証については原本の存在も)を認める、と述べ
被告指定代理人は乙第一ないし四号証を提出し、証人山村育稔の証言を援用し、甲号各証の成立を認める、と述べた。
理由
一、被告が原告に対し、昭和四一年一〇月一二日付で原告の昭和三六年度分の所得税額を金一六万八、七五〇円、同じく無申告加算税額を金四万二、〇〇〇円とする賦課決定をなし、その旨原告に通知したこと、右決定に対する原告の審査請求につき昭和四二年四月一四日福岡国税局長が右審査請求を棄却する裁決をなし、その旨原告に通知したことは当事者間に争いがない。
二、そこで本件課税処分の適否につき判断する。
(一) いずれも成立に争いのない甲第三号証(登記簿謄本)、乙第一号証(不動産売買契約証書)、同第二号証、(領収証)、同第三号証(意見聴取書)、同第四号証(領収証)および証人山村育稔の証言によれば本件宅地の登記簿上の所有名義人は売買当時原告であり、これを訴外石村秀夫、同白水善左衛門に売却するについても原告が売主として表示されていること、右売却代金は原告が受領し、そのうち金三〇〇万円については実兄亡広瀬正蔵が原告より受領した旨の書面(乙第二号証)が存することおよび売買成立後原告自身が関係者に対し謝礼として物品を贈つていることが認められ、これらの事実によると本件宅地の所有者は一応原告であつたと推定すべきもののように思われる。
(二) しかしながら他方前掲甲第三号証、成立に争いのない甲第一、二号証(戸籍謄本)証人石村秀夫、同後藤朋義、同川原春男の各証言および原告本人尋問の結果を総合すれば次の各事実、すなわち、本件宅地は元来原告の実兄亡広瀬正蔵の所有で、形式上昭和二三年一二月七日贈与を原因として原告名義に所有権移転登記がなされているが、右移転登記は土地区画整理事業による収用を免れるため右正蔵が原告に無断でなしたものであること、正蔵は右移転登記後も自己の債務担保のため本件宅地に根抵当権を設定していること、本件宅地の売却は正蔵の旅館経営による多額の負債を整理する目的でなされたもので、売買の交渉一切は正蔵が行い、売買代金も同人が受領したが、右代金の一部をもつて充てた移転先の土地建物の購入建築資金について税務署よりその出所を追及されることを考慮し、正蔵が原告より右売買代金のうち金三〇〇万円を本件宅地上に存した正蔵所有家屋の解体移転費用として受領した旨の領収証(乙第二号証)を作成するとともに、正蔵は原告に対し名義借用料の名目で売却代金のうちから金三〇万円を与えたことおよび原告が売買成立後正蔵外二名の関係者に対し一万七、四〇〇円相当の物品を贈つたのは三〇万円の名義料を貰つたことへの謝礼の趣旨であること以上の事実を認めることができる。
(三) したがつて右(二)認定の諸事実を前記(一)の各事実と対比すれば、原告は単なる登記簿上の所有名義人に過ぎず、本件宅地の真実の所有者はむしろ広瀬正蔵であると認めるのが相当である。
そして他に原告が本件宅地の所有者であることを認めるに足る証拠はない。
以上によれば原告が本件宅地の所有者であるとしてその売却による譲渡所得につき昭和三六年度分所得税として金一六万八、七五〇円、無申告加算税として金四万二、〇〇〇円を原告に対し賦課する被告の決定は違法であること明らかであるから取消を免れない。
三、よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安東勝 裁判官 大西浅雄 裁判官 上田幹夫)